馬の歯 TEETH OF HORSES

 海岸にはいろいろな動物の骨が打ち上がる。イルカやクジラなどの海
棲哺乳類をはじめ、川から流れ込むなどした陸棲の動物の骨も見つかる
ことがある。海中や地中にある骨は、少しずつカルシウム分が溶け出し
て、古くなるほど壊れやすくなる。けれど、歯のエナメル質は変化しに
くく、化石などでも比較的、残りやすい。馬の歯は草食動物に特有の、
草をすりつぶす平たい形の歯をしているのが特徴だ。馬は動物としても
大きいので、その歯も数センチもの大きさになる。         


     
タイトル   鎌倉名物
  馬の歯は、実は神奈川県鎌倉市の海岸だけに見られる
  ものではない。県内のほかの海岸でも拾えるし、ほか
  の県でも拾える。でも、その量と頻度が違う。その由
  来には諸説あるけれど、古いものでは鎌倉時代のもの
  があるのではないか、とも言われている。鎌倉市は誰
  もが知る通り、最初の武家政権・鎌倉幕府の都。材木
  座海岸には当時の港の遺構である和賀江島遺跡も残っ
  ている。また合戦も多く、1213 年に起きた和田合戦
  は由比ヶ浜が主戦場だし、1333 年に鎌倉幕府を滅ぼ
  した新田義貞は、稲村ヶ崎から海伝いに攻め込んだ。
  馬の歯は合戦で死んだ馬のものだろうか。打ち上げら
  れた歯をよく見ると、かなり磨り減ったものが多い。
  つまり、かなり歳をとった馬のものなのだ。古い時代
  には海岸に屠殺場のようなものがあったのかもしれな
  い。 いずれにしろ骨や歯なんて言うとちょっとおっ
  かなびっくりな感じだけれど、実物は化石のようで、
  なかなかのお宝なのだ。             


  ※江ノ電の駅の和田塚は、和田合戦に因んだ地名です。
     
タイトル   馬の歯見つけた!
 馬の歯は、ここに載せた写真でもわかる通り、黒っぽい
 もの、茶色っぽいもの、白っぽいもの、はたまた灰色っ
 ぽいものと色合いもさまざま。しかも見かけは石にそっ
 くり。一度、手にすれば独特の質感を覚えることができ
 るけれど、最初の1個を見つけるまでがちょっと難しい
 かも。ゆっくりと時間をかけて探せば、数本見つかるこ
 ともあるようだ。とは言っても、この馬の歯はいわば限
 りある資源。みんなで拾い続ければ枯渇することだって
 あるだろう。数百年の時を経て現代に流れ着いた貴重な
 遺物なのだから、ずっと大切にコレクションできる人だ
 けに拾ってほしい。でないと、お馬さまの霊が化けて出
 るかもしれないよ。                
     
タイトル  前歯(門歯)
 1本独立したこの歯は、前歯のようだ。牙のようにも見
 えるけれど、写真の右側、平らになった方が上で、左側
 のとがった方が歯根だろう。口の前部分に並んで、草を
 噛み切るための歯だ(上で紹介しているのは奥歯)。奥
 歯に比べて、見つかる数は少ない。質感は奥歯と同じだ
 けれど、細い形は大きな貝殻の内側破片や、サザエなど
 の取れたトゲに似ていなくもない。そんな理由で、奥歯
 以上に見つけにくいことが少なく感じる理由だろう。 
     
タイトル  大型動物の骨
 合戦場にしろ屠殺場にしろ、そんなものがあったのなら
 ば、いくら残りにくいとは言っても、歯以外の骨だって
 見つかるはず。実際に鎌倉の浜辺を歩くと、ほかの浜辺
 に比べて骨を見かける明らかに機会が多い。写真の骨も
 かなり大型の動物のものだ。今までには、下あごの骨や
 大腿骨、骨盤と思われる骨などを見たこともある。ここ
 までくると、さすがに不気味? もしかしたら、人の骨
 が混ざっているかも…なんて思ってしまう。でも…これ
 もあるいは立派な歴史の異物。興味のある人はいかが?


     
タイトル  犬歯?
 これは牙状の歯だ。写真の右側が上、左が歯根だ。先は
 よく磨り減っていて、円錐形ではなく少し平たくなった
 形、ノミやマイナスドライバーのような形をしている。
 これは前歯以上に珍しく、やっと1本拾うことができた
 もの。大型の哺乳動物のものに間違いないが、種類は特
 定できない。陸上動物の犬歯かもしれないし、クジラ類
 の歯にも似ている。専門家に見てもらうか、いろいろな
 標本と見比べないと、特定は難しいだろう。     
     
タイトル  イヌの下顎骨
 愛犬家の人にはちょっとショックかもしれないけれど、
 右の写真はイヌの下顎骨だ。今でも海岸にはイヌの死体
 が流れ着くことがあるが、これらはおそらくそこそこ古
 いものではないかと思っている。骨の痛み具合が時間経
 過を感じさせるし、見つかるものは大抵、大きさがほぼ
 同じで(写真上で長さ約13センチ) 、品種の差が感じら
 れないのだ。仏教国である日本も、実は昔はイヌ食が普
 通におこなわれていたし、そのように処分されたものの
 骨ではないかと思う。ただし、あきらかに最近のもの…
 と思われる骨もあるから、さすがにそれは拾う気になれ
 ない。ただ、その場合はイヌよりネコの方が圧倒的にに
 多い。繋がれて暮らすイヌと、放し飼いが多く自由に暮
 らすネコ。漂着物にも、その違いが表れるのだ。   

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