日記タイトル

番外編:西表島歩記 05'





番外編の番外その2:おじさん危機一髪!

 西表島が希少昆虫の宝庫であることは、前にご紹介した通
り。昆虫の種類はまたさまざまだが、今回の旅に同行したイ
ラストレーターのK氏は、トンボがなかなかのお気に入り。
もちろん、西表島には本土では見られない珍しいトンボも数
多い。トンボの撮影はなかなか難しく、止まっているのを撮
るだけでも案外苦労する。でも、その姿をよく見ると種類に
よって色や模様がさまざまで美しい。しかも、飛ぶことに特
化した洗練されたスタイルは、なかなかカッコイイのだ。 


 ヤエヤマサナエ 西表島と石垣島だけに見られるサナエトンボ。



    右)コナカハグロトンボ 西表島と石垣島だけに分布する。左)クロイワカワトンボ 西表島と石垣島、台湾に分布する。
    どちらも島の渓流域でくらしている。からだが細く、繊細な雰囲気のあるトンボ。


   
  トンボというのは、当然のことながら川
 や池、湿地などの周辺でよく見られる。西
 表島東部の林道を歩いているとき、道沿い
 に湿地があり、何やらトンボが飛んでいる
 のが見えた。K氏は迷わず湿地へ進む。道
 からは距離2mほどで、たいした草むらも
 ない。だが、その後に続こうとした時、ふ
 と前方の木の脇を動く細長い生物が目に入
 った。よくよく見てみると、な、なんと、
 サキシマハブだ!動いた位置からして、K
 氏は思いっきり跨いでいたはず。そのサキ
 シマハブは攻撃的な姿勢はとっておらず、
 なにもしなければ危険はなさそうだったが
 一歩間違えばK氏か自分のどちらかが噛ま
 れた可能性は高い。まさに危機一髪!の状
 況だった訳だ。フィールドではさまざまな
 危険があることを、改めて認識させられた
 出来事だった。            

                          相手が攻撃的でないことを確認して撮影したサキシマハブ。実は生きたものを
                          見るのはこれが初めて。奄美諸島や沖縄本島にすむハブに比べて毒性は弱く、
                          現在では血清もあるので、噛まれても死ぬことはほとんどない(らしい)。 




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 番外編の番外その1:カエルとの出会い

  今回、この西表島歩記ではリュウキュウカジカガエルを紹
 介したが(D夜は更けても眠れないの巻)、西表島にはまだ
 まだたくさんのカエルがいる。しかも、水のたまった樹洞に
 卵を産みオタマジャクシに未受精卵を与えて育てるアイフィ
 ンガーガエルをはじめ、美しい緑色のヤエヤマアオガエルや
 日本最小のヒメアマガエルなど、興味をそそる連中ばかりな
 のだ。見たい、見てみたい。思いは募る。        


          水田や湿地でふつうに見られるサキシマヌマガエル。
          これはまだ陸に上がったばかりで、尾が残っている。


   
 カエルというと比較的身近な存在に思えるけれど、そうそう簡単に見られるものではない。ごく普通に
見られるのは、上の写真のサキシマヌマガエルとヒメアマガエルくらいで、ほかの種類は林の中や山中な
どにいるため、かなり難易度が高い。新たなカエルに出会うために、僕は海岸に出て探し歩いた。   
 えっ? 海岸にカエルがいるわけがないって? 意外と思われるかもしれないけれど、海岸にもカエル
はいるんです。そして、今回の西表島の海岸で出会ったのは、こんなカエルたちです。        



海岸で出会ったカエルくんは、漁網に使う浮き(フロート)の一種でした。ほとんどが中国製です。(おそまつ)





 @真夏の西表島はすべてに熱かった!の巻

  今回、2年ぶりに沖縄の西表島に行って来た。学生以来、十数回を数え
 る西表行きだが、梅雨明け直後の真夏の西表島は今回で2回目。前回に訪
 れた時には、島全体に溢れる生命力の濃さに驚かされ、同じ時期の再訪を
 心に誓っていたのだ。この時期の西表島は、島の中を歩くと、あちこちら
 から生き物の気配がプンプンと漂ってくる。西表島の魅力は、この「次に
 何が出てくるか」というドキドキワクワク感なのだと思う。夏はその感じ
 が一年でも最高潮に達する、“熱い”時期であるのは間違いない。   
  今年は例年に比べて梅雨明けが遅れた沖縄地方だが、出発の2日前には
 梅雨明け宣言があり、もちろん現地に着いてからは快晴続き。日頃の行い
 の良さが証明されたのだった(むしろ、憎まれっ子世にはばかる…?)。
 しかし、真夏の西表は“熱い”。「暑い」よりも「熱い」の字が似合う。
 気温は 30 度を少し超える程度だけど、陽射しがギラギラと強烈。一歩間
 違えば熱中症で倒れかねない、そんな状況なのだ。         


 爽やかな朝の浜辺。でも、実際はこの時間でもかなり暑く
 じんわりと汗が染み出してくるのだ。         



  今回旅行を同行したのは、仕事でお世話になっているイラストレーター
 のK氏。彼は西表島が2回目なのだが、前回は家族旅行ということもあっ
 て100%自分の好き勝手にできるのは今回が初めて。それだけに、K氏の
 テンションはかなり“熱い”ものがあった(けっして“暑苦しい”ではな
 いので、念のため…)。見るものすべてに目を輝かせるK氏は、もう完全
 に少年時代に戻っていた。なので、今回は僕が今まででおもしろいと思っ
 たフィールドを案内する形で、観光的要素の全くないウォッチングのみの
 行動パターンへ。その内容はというと…               
 朝日の出前に起床し海岸を散歩(これは各自で勝手に)→朝食後に行動開
 始して午前中の観察→何処かのお店で昼飯→午後日没近くまで観察→帰っ
 ビールとシャワー→夕食を食べに外出→夕食後にそのまま夜の観察→夜半
 前に帰って軽く飲んで(ほとんど語ることもなく)就寝…       
 といった感じ。観光客はおろか、島の人にさえ会わないような場所を、暑
 さと疲労でヨレヨレになりながらも、顔はニヤつかせているという、かな
 りヤバイ雰囲気のおっさん2人が彷徨っていたのだった。  



             念願のヤシガニと対面することができて、やたらニヤけるK氏。


  島の生き物たちは、予想通り熱かった。
 中でも一番“熱”かったのが左の彼。国指
 定の天然記念物にして環境庁版レッドデー
 タブックの絶滅危惧種でもあるセマルハコ
 ガメ。腹甲に蝶番があって、頭と手足を引
 っ込めると、完全に甲羅が閉じてしまうと
 いう面白いカメだ。西表島では、雨が降る
 と庭先や道路端で、案外簡単に見ることが
 できる。この彼は道路端の湧き水にいたの
 を見つけ、撮影モデルに。でも、この彼は
 手に持つと「フーッ!」と荒い鼻息を吐き
 かなりご立腹の様子。それでも、おっさん
 2人にしばしおつき合いいただき、写真を
 撮らせてもらいました。        


 カメと言っても動きはかなり機敏。クルリと
 きびすを返して逃げていくので、撮影するに
 も一苦労。               






 A個性豊かな島の昆虫たちにオドロキ!の巻

  今回の旅行を同行したK氏は大の昆虫好き。それに対して
 実は僕はあまり昆虫は得意分野ではない(キライという訳で
 はない)。その道に詳しい人が一緒だと、ものを見る目も影
 響を受ける。だから、今回は今までは馴染みがなかった昆虫
 たちをいろいろと見ることができたのは、自分にとって、と
 ても新鮮な体験だった。                
  気にして見ていくと、あちこちに昆虫たちがいることに気
 がつく。とにかく種類が多い。滞在中にチョウ類約30種、ト
 ンボ類約10種を始め、クワガタムシ、コガネムシ、カメムシ
 など、総数で60〜70種くらいは確認したと思う。    


   アオタテハモドキ。日本では八重山諸島だけに見られる美しいチョウ。



    もちろん西表島のこと。数の多さだけではなく沖縄だけ、八重山諸島だけ、そして西表島だけ、という昆
   虫も少なくない。しかも、そのどれもがとっても個性的なのだ。 ほんの一例をあげれば、西表島では日本
   で一番大きなチョウと、一番小さなチョウを見ることができる。日本で一番大きなガもいる。えっ? その
   どれも写真が出てないって? 撮れるものと撮れないものがあるんですっ。撮れても、それがよい写真とは
   限らないんですっ!                                       
    生き物の採集をしないのが、フィールドへ出た時の僕のポリシー。なので今回はK氏にも極力、採集は自
   粛してもらった。だから彼はカメラを手に昆虫を追い回す。チョウの飛翔写真を撮るために苦労する彼の姿
   は、昆虫少年どころか、気の触れたおっさんが踊り狂っているようだった(ごめんなさいネタにして…笑)。


    写真左上はアシブトヘリカメムシ。体長が3cm もある巨大カメムシで、そのぶっとい後ろ足が
    それ以上の存在感を醸し出している。 右上写真は前羽が開かず後ろ羽も退化して、飛ぶことの
    できないクロカタゾウムシ。飛べない代わりに体を硬くして身を守っている変わり者なのだ。 



 今回、観察した昆虫たちの中で、最も珍しく、しかも変
わり者と言ったらコイツだろう。ヤエヤマツダナナフシ。
西表島と石垣島の一部の海岸にいて、アダンの木だけで見
られるナナフシの仲間だ。発見されたのは1989 年だから
まだその存在を知られてからさほど経っていない。実はこ
の昆虫、もともと八重山諸島にいたのではなく、お隣の台
湾などからラフティング、つまり流木などに卵や昆虫その
ものが乗っかって海を渡り、流れ着いて定着したと考えら
れているのだ。う〜ん、何という冒険者!そして漂着物好
きの僕にとっては、西表島で必ず見ておくべき存在だった
のだ。探すポイントは、アダンの葉についた食痕。その葉
の付け根を探せば見つかる訳だ。           
 ところが、このヤエヤマツダナナフシ。思っていた以上
にキモイ!その肉感と言い、顔つきと言い、何とも言えな
い。しかも、身を守るためかサロメチール臭のする白い液
を出したりする(K氏がその被害に…)。念願叶ったのは
よいのだけれど、夢に出てきたらどうしよう…と思い悩む
今日この頃だ。                   


 ヤエヤマツダナナフシとは、こんなヤツです。体長が12cm
 もあるので、存在感もかなりのもの。食痕のあるアダンの葉
 を引っ張ったら、付け根に発見!ところがコイツ。何を思っ
 たのかサササ…ッと手元の方に進み出て来た。鳥肌ゾゾゾッ!








 B灼熱の干潟でカニと根比べの巻

  西表島の楽しいウォッチング・ポイントの1つがマングローブだ。この
 森は潮が満ちると、根元はおろか幹の途中まで水中に沈んでしまうという
 不思議な森なのだ。西表島は離島なのに河川が多く、河口や海岸にはこの
 マングローブが発達している。さすがに潮が満ちているときは、カヌーで
 川を遡りながら眺めることぐらいしかできない。ところが、ひとたび潮が
 引くと、マングローブは生き物観察の絶好のポイントになるのだ。   

  潮が引いた後に現れる干潟は、一見すると生き物が少ない不毛な場所に
 見える。ところが、実際に干潟に足を踏み入れると、実にたくさんの生き
 物に出会えるから驚く。何が楽しいって、干潟に棲む多種多様なカニたち
 を探すのも楽しいのだが、カニたちのユーモラスな行動は、見ていてホン
 ト飽きないのだ。


               潮が引いたマングローブの干潟。タコの足のような気根を
               伸ばすのは、マングローブの代表種ヤエヤマヒルギ。  




  左からオキナワハクセンシオマネキ、ヒメシオマネキ、ベニシオマネキ、ヤエヤマシオマネキ 代表的なシオマネキ4種。

  干潟の代表的なカニと言えばシオマネキの仲間。大きなハ
 サミを振ってメスに求愛する様子を「潮を招く」姿に見立て
 て名前がつけられた。西表島の干潟で見られるシオマネキは
 6種類。その中で、ほかの5種類とは違い、普通の干潟では
 なく岩がゴロゴロしたような場所に棲み、西表島でも見られ
 る場所が限られるヤツがいる。それがルリマダラシオマネキ
 (写真左)だ。名前の由来は見ての通り。泥っぽい干潟で、
 輝くようなその瑠璃色は一際目を引く。けれど、コイツをウ
 ォッチングするのはなかなか難しい。干潟のカニは警戒心が
 強く、遠くから姿を見せただけで巣穴に引っ込んでしまう。
 このルリマダラシオマネキは、その警戒心が人(カニ)一倍
 強い。しかも、一度穴に入ると長い間姿を現さない。そうな
 ると、巣穴の前にしゃがみ込み、ただひたすら待つしかない。


 シオマネキの撮影はに根気と駆け引き。巣穴から出てくるの
 をひたすら待つ。姿が見えたらけっして動いてはいけない。
 しかし敵も然る者。巣穴の入り口で半身になり、小さな目で
 こちらをジッと観察している。まったく気が抜けないのだ。


  ルリマダラシオマネキ以上に厄介な相手
 がミナミコメツキガニだ。このカニは体が
 丸く、足のつき方がほかのカニと少し違い
 前に歩くことができる。2cmほどの小さな
 カニなのだが、大きな集団で干潟の水際を
 歩きながらエサを食べている。     
  広い干潟にいるからコイツの警戒心も半
 端じゃない。こちらに気がつくと体をクル
 リと回転させながら器用に泥にもぐってし
 まう。そうなると、またひたすら“待ち”
 である。しかし、真夏の陽射しを遮る物な
 ど何一つ無い干潟は、ほとんど灼熱地獄。
 カニが出てくるのを待つ間に、どんどん気
 が遠くなっていく。もう、死んだ婆ちゃん
 が現れて手招きするのが見えるほど…。 
 そんな苦労の末に捉えたのが右の写真。膝
 も肘も泥につけ、干潟に寝そべるようにし
 て撮った会心の一枚だ。        

                           何しろこちらはコンパクトデジカメ。これだけ寄るのは至難の業。でも次は
                           ぜひ正面から捉えたい。泥から出てくると足で顔の泥をぬぐう、そんな可愛
                           いシーンも撮ってみたい。





 C亜熱帯の森で貴婦人に出会う

  西表島では、人の手が入っている場所は海岸沿いのわずかな土地だけ。
 島のほとんどは亜熱帯の原生林に覆われている。木や草が生い茂り、蔦が
 絡まり、おいそれとは入り込めない雰囲気が漂う。迂闊に入り込んだら、
 緑の洪水に飲まれて、二度と出てこられない気さえする。いや、実際そう
 なるに違いない。しかし、それは一方で堪らなく惹きつけられる魅力を放
 っているのだから質が悪い。                    
  西表島の森に入り込むにはいくつかの方法があるが、ウォッチングにた
 っぷりと時間を使いたかった今回は、無理して奥深くに分け入ることはせ
 ず、お手軽に森の雰囲気を味わえる林道を歩いてみることにした。林道は
 もちろん林業用に作られた道なので、ところどころ伐採跡があったり、原
 生林ではなく植林や二次林になっていたりするが、以前にはヤマネコの足
 跡も見たことがあるほどで、生き物の気配はけっして薄くない。    


            いかにも亜熱帯!と言う雰囲気を醸し出す木性シダのヒカゲヘゴ。
            まるでジェラシックパークの世界に迷い込んだみたいだ。





 林道に入り込むと、木陰が陽射しを遮ってくれるので、さすがに体感気温も下がる。とは言え、道は登りだ
し湿度はかなり高いので、しんどいことには変わりない。けれど、山の中の道は何が出るかわからないドキド
キワクワク感がある。ついつい先に行ってみたくなり、足取りも速くなりがち。森の中でも薄暗い場所を好む
チョウがいたり、途中に現れる渓流や湿地にはトンボが舞っている。また、何気なく目を向けた木の幹にキノ
ボリトカゲがしがみついていたりもする。                              
 でも、それ以上に目を見張るのは、やはり植物のパワーだ。林道沿いは完全な原生林ではないので、驚くほ
どの巨木に遇うことはない。けれど、熱帯や亜熱帯に多い板根を持つ木や、オオタニワタリなどのシダ類など
を着生させた木などを見ることができるし、林床に茂るクワズイモやシダの仲間の巨大な葉からは、活気溢れ
る“生”のパワーをヒシヒシと感じることができる。温帯域の見慣れた森とはまた違った、魅力ある森だ。 

    写真左上:地面に網の目のように張り巡らされた根。写真右上:クワズイモの葉は大人でも小雨くらいはしのげる大きさ。


  そんな森を歩くにあたって、実は密かに期待していたこと
 があった。それが、亜熱帯の美しい花との出会いだ。もちろ
 んそれは園芸種や帰化植物ではなく、純粋な自生種。まだま
 だ自然が色濃く残る西表島なら、今までに見たことのない種
 類の花にも、きっと出会えるはずだ。          
  …と思っていたのだけれど、実際に林道を歩いてみると、
 ほとんど花が目につかない。というか咲いていない。亜熱帯
 の森はよく葉が茂っていて林床が暗いので、それほど多くの
 種類があるとは思っていなかったが、それにしても少ない。
 でも、考えてみれば本州でも花が多いのは春から初夏、そし
 て秋口。亜熱帯と言っても、真夏に咲く花は少ないのかもし
 れない。ましてや林道では人が気軽に入れる故に、貴重な植
 物は盗掘の被害にあうことも多い。歩きながら、そんなこと
 をぼんやり考えていた。                
  ほどほど林道を進んだところで、ふと林道の脇に目をやる
 と、そこだけ木漏れ日を集めたかのような白いものがある。
 「あった!」 たった1株だけ咲いていたのは、ツルラン。
 屋久島・種子島以南に分布する野生ランで、園芸植物でも有
 名なエビネの仲間だ。清楚な白い花は、まさに貴婦人の趣。
 こんな出会いがあるから、森歩きは止められないのだ。  


         西表の森で出会ったツルラン。名前は花を鳥のツルに見
         立てたもの。環境庁版レッドデータブック危急種。






 D夜は更けても眠れない!の巻

  西表島の夜は暗い。灯りなどは集落の周辺にしかないし、もちろんネオ
 ンサインなどあるはずもない。街灯だって、あるのは集落周辺だけだから
 すっぽりと島全体が闇に包まれていると言っても、けっして過言ではない
 はずだ。それだけに夜の星の多さには目を見張る。ただ、これはあくまで
 個人的な見解なのだが、南の島では水蒸気が多いためか、星空が少しぼん
 やりして見える気がするのだ。だから、単純に星空の良さを言えば、高い
 山に登ってみる星空が一番きれいだと思っている。でも、そんな南の島で
 も空気の澄んだ日が必ずあり、そんな時はすばらしい星空を見せてくれる。
 今回の初日の夜が、まさにそれだった。               
  まさに降るような星。そしてあまりに濃くて太い天の川。こんな天の川
 を今まで見たことがあっただろうか…。少年時代、星が好きだった自分の
 記憶にも思い当たらないほどの天の川だ。意識しないで見たら、「ああ、
 雲がかかってるな…」と思ってしまうだろう。こんな星空を見ていたら、
 きっと星座を創りたくなり、あの星まで行ってみたいと思うことだろう。
 都会のネオンは子供たちの夢を奪っているんじゃないだろうか。    


                コンパクト・デジカメで天の川の撮影。感度をASA1600に設定。30秒間の撮影でこれだけ写すことができた。       



 西表島という最高の舞台を得て、おっさんたちの勢いはとどまるところを知らない。亜熱帯島の夜は、昼
間に劣らないウォッチング・タイムだ。夕食を済ませてから活動開始。一番の目的はヤシガニ探し。と言っ
ても、不慣れな我々がとれる方法は、道路を横断するヤツを見るけるという簡単なもの。それでも、以前に
僕が同じ時期に来島した時には、滞在中2個体も発見できた。今回の成果がどうだったのかは、もうすでに
西表歩記の1回目でご存じの通り。今回はヤシガニ以外のお話をしよう。               
西表島に初めて来た人は、夜になると道路を好き勝手にカニが歩き回っていることに驚くだろう。夏場はそ
れがピークになる時期。カニたちは何をしているかって? 彼らは半陸生のカニたちで、大潮に合わせて海
へ向かい、そのお腹に抱えた卵を放つのだ。卵はすでに発生が進んでいて、海に放たれると同時にはじけ、
幼生たちが生まれる。幼生たちはしばらく海で過ごした後、小さなカニの姿になって陸に戻ってくるのだ。
 それはともかく、道路はとにかくカニがウロウロ。車で走ると危なっかしくて仕方がない。島の人たちは
気にせず踏みつけて行くが、まだそこまで開き直れない…。しかも、踏みつけた瞬間、「クシャッ!」と妙
に小気味良い音を響かせてくれるから、なんとも後味が悪いのだ。                  

西表の夜を徘徊する連中。驚くのは甲の大きさが成人男性の拳ほどもある巨大なカニ・ミナミオカガニ(写真左)だ。
ハサミも大きく、指くらいは平気で切り落としそうな雰囲気。もちろん、こんなのを踏んだ時には、悪い夢でも見そう
になる。また体は小さいけれど鮮やかな赤い色をしたベンケイガニ(写真中)も多い。写真右は簡単な図鑑では載って
いないカタツムリの一種。やたらに細長い体が特徴的だった。                         



 昼間おもしろい場所は夜も楽しい、という
のがウォッチングの常識(?)。そこで、夜
の観察も、昼間さんざん昆虫を探したあるポ
イントへ行ってみた。その場所は、細い車道
に腋の斜面から流れ出た水が溢れている。車
を進めると、ヘッドライトの光の中に、いく
つもの小さな物体が…。大小2種類あるそれ
は、よく見てみるとカエルだった。    
 小さい方は体長が3cm ほどだろうか。お
行儀良く顔を上げて座っている姿がなんとも
可愛いらしい! 早速、車から降りて撮影。
でも、微妙な距離でどいつも逃げてしまい、
なかなか近寄れないっ。それでも苦労の末に
捉えたものの1枚が右の写真。      
「さぁ、出発!」と車に乗って、ふと困って
しまった。お〜い、カエルくん。そこにいた
ら車が通れないんだけど…。       


                          小さいカエルくんは、ニホンカジカガエル。ニホンとついても琉球列島にしか
                          いないので、リュウキュウカジカガエルとも呼ばれている。        




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